信用創造の話2

無リスク世界を想定するなら、企業と家計が直接やり取りする場合(ケース1)と銀行による信用創造(ケース 2)は同じことになるだろう、というのが前回の話だった。今回はシンプルな2期間モデルを示す。説明を簡単にするために限界変形率(生産可能フロンテ…

信用創造の話

信用創造とは銀行が貸付を行うことだ。このとき貸付と同額の預金が借手の口座に振り込まれる。銀行と借手がそれぞれ次の仕訳を切ることだ、といってもいい。 銀行: 貸付/預金 企業: 預金/借入 ある論者はこれをみて、貯蓄(預金)は貸付と同時に創造され…

”債務負担についての誤謬”(3/3)

前回に引き続き、ブキャナン*1とワグナーの"Public Debt in a Democratic Society"から、"The Fallacies of Debt Burden"を紹介する。今回は第3回で、最終回。以下翻訳。 移転的支出の誤謬 「我々は我々自身から借りているのだ。」これは内国債がコストを時…

”債務負担についての誤謬”(2/3)

前回に引き続き、ブキャナン*1とワグナーの"Public Debt in a Democratic Society"から、"The Fallacies of Debt Burden"という議論を紹介する。第2回となる今回は、「外国債は負担を生じるが、内国債は負担を生じない」という見解について検討が加えられる…

”債務負担についての誤謬”(1/3)

今回から3回にわたって、ブキャナン(1986年ノーベル経済学賞受賞)とワグナーによって1967年に著された"Public Debt in a Democratic Society"から、"The Fallacies of Debt Burden"と題された議論を紹介する。第1回となる今回は、「負担とは現在の資源の…

日本の労働生産性に関する基本的な事実

今から言うことは大した話じゃないけど、巷の議論を見ていると意外に共有されていないようなので記事にしておく。なおここで労働生産性はGDP per hour worked (USD, constant prices, 2010 PPPs)を使っている。 日本の労働生産性は昔から低い 他の主要先進国…

「貨幣進化論」の政府・中央銀行清算をBSで表示する

貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム (新潮選書) 作者: 岩村充 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2010/09/23 メディア: 単行本(ソフトカバー) 購入: 4人 クリック: 37回 この商品を含むブログ (13件) を見る この本の第一章では小さな島の箱庭的な…

というか、JR北海道は”民営”なのか?

b.hatena.ne.jp ある人はいう、JR北海道の民営化は失敗だったと。また別の人はいう、JR北海道の民営化は間違っていなかったと。僕に言わせてもらえば、こんなものは擬似問題だ。だって、JR北海道は公営なんだから。 民営化の定義を争うつもりはないので次の…

生産性の向上が飢餓をもたらすことはできない

togetter.com 上の記事はアフリカ諸国の飢餓の原因を米国などからの安価な輸入食料に求めている。安価な輸入品との競争に負けた自国の農業が立ち行かなくなり、他に働き口もないので飢餓になったのだという。 本当に? だって自国の農業を駆逐するほど膨大で…

それでも貿易はインドを豊かにする

b.hatena.ne.jp 上の話によると、東インド会社の時代、インドの綿製品よりも遥かに安い大英帝国の綿製品がインドに流入したことにより、インドの伝統的な紡績業は壊滅してしまったという。それが大反乱を招いたとも。 本当にこれだけの話なら、英国産の綿製…

上場子会社の社外取締役設置義務化に反対する

www.nikkei.com 政府は親子で株式市場に上場している企業グループの利益相反を防ぐための新しい指針をつくる。子会社の取締役は過半を独立した社外取締役で構成するなど経営の自主性を求めるのが柱だ。 子会社を上場させるのは子会社株を売って資金を得るた…

Amazonが税金を払っていないのはXXXに払いまくっているから

Amazonが過去最高益なのに税金をろくに払っていないというので話題だ。タックスヘイヴン云々という批判もあるようだがこの点に関しては誤っている。Amazonが利益のわりに課税を免れている理由は国際租税回避ではなく、米国の税法と会計基準にある。そしてAma…

転売の利益の本当の源泉(あるいは転売屋の正義について)

チケットの転売で利益が生じるのは、主催者の設定した値段が転売屋のそれよりも低いからだ。しかし、なぜ低いのか? この問題について、お得な価格でライト層を新たに呼び込むことが長期的な利益につながるからだ、という見解をしばしば見かけるようになった…

3個のリンゴと彼女とのデートの効用は比較できる

www.asahi.com 3個のリンゴと彼女とのデートの効用は数値では比較できない。それでも人間はその時その時の状況で選択し行動している。それが市井人の生き様というものではないか。 彼女とデートする予定がある人に、3個リンゴをあげるからデートに行かない…

なぜ役務を無償で受けても課税されないのか

法人税法第22条 2.内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のも…

のれんの償却はなぜどうでもいい問題なのか

www.nikkei.com 日本基準ではのれんは毎期一定額が規則的に償却されるのに対し、IFRSではのれんの償却は行われない。のれんの価値が簿価を下回ったときに減損するのはどちらの基準も同じである。 今、IFRSでものれんの償却の導入を検討する動きがあるようだ…

累進所得税は応益負担か?

所得の多い人は、その所得を稼ぎ出すためにそれだけ多くの公的インフラを使用しているはずであり、したがって累進課税は応益負担の観点から正当化される、という見解を見かけた。が、この理由付けは相当無理がある、と思う。 Aさんは(税引き前で)所得300万…

空襲と設備更新の誤謬

headlines.yahoo.co.jp 戦後日本が米国を上回る高成長を遂げたのは、企業設備が空襲で破壊されたために、最新の設備に一新されたからだ、とかつて言われていたことがあった。この説には難点がある。別に空襲がなくたって設備を更新するのは自由だ。最新設備…

時価会計有害説

Fischer BlackがMagic in earningsという論文で時価会計について面白いことを述べていたのを見つけたので一部訳出する。 証券アナリストは利益について明白な考えを持っている。彼らは標準的なPERを乗ずることで価値の推定が得られるような利益数値を求めて…

「公正な環境」? ──EUの動画配信規制についての雑感

japan.cnet.com この法案が可決されれば、EU圏で営業しているオンデマンド動画ストリーミングサービスは、コンテンツの少なくとも30%を同地域で製作されたものにすることが必要になるという。 もしEU圏で製作されたコンテンツを消費者が求めていて、しかもA…

内部留保(利益剰余金)に関する5つの事実

www.asahi.com もはや恒例記事となりつつあるとなりつつあるので多くは語らない。 利益剰余金は過年度の「利益ー配当」の積上げである。 したがって企業が普通に利益を出していれば利益剰余金は毎年当然に過去最高を更新し続ける。 実際、戦後ほとんどの時期…

トヨタの税率は低いのか?

トヨタは利益の10%程度しか税金を払っていない、という記述を某所で見かけた。この手の胡散臭い話はいろんなところで見るのだが、まず頭に入れて置かなければならないのは、トヨタグループが日本にいくら税金を収めているのかは開示されていないということだ…

競馬と選択と集中

togetter.com 当たり馬券だけを買い続けることはできない。何枚かの当たり馬券を手にした人は何枚かの外れ馬券を手にした人でもあるだろう。けれどそのことは、彼が賭け金を複数の馬券に分散させる戦略を採ったことを意味しない。彼はひとつひとつのレースで…

貯蓄から投資へ?

b.hatena.ne.jp 家計部門が預金を株式に持ち替えるには次の操作が行われる:企業部門の株式発行に応じて*1家計は預金の一部を企業部門に振込み、企業部門は振込まれた預金で銀行借入を返済*2する。さて何が起こるか? 特段何も起こらない。企業価値は資本構…

資本主義が長期の利益追求を可能にする

市場ないし資本主義経済は短期的な利益しか追求しない、としばしば言われる。そしてまたしばしば、だから基礎研究やインフラ、都市開発といった長期の投資は政府が実施すべきだ……と続く。*1 このような偏見を人々がどこで身につけているのか、僕には不思議で…

東芝の自社株買いについての雑感

jp.reuters.com 東芝が多額の自社株買いを決めた。昨年末に増資したばかりで忙しいことだ。以前から香港のファンドが自社株買いの実行を要求していたらしい。とはいえ、素直な経営だな、と僕は思った。 自社株買いは新株発行の反対をイメージするといい。株…

資源制約を無視して必要性を論じることは虚しい

*1無人島に流されたロビンソン・クルーソーは、寒さを凌ぐための焚き木か、渇きを凌ぐための真水を集めようと考える。両方を用意する時間はありそうにない。夜の闇がそこまで迫っている。 必要かどうかといえば、焚き木も真水も共に必要だろう。が、クルーソ…

恵方巻きは合理的に廃棄されているかもしれない

恵方巻きの大量廃棄が問題視されているようだ。それが問題視されるのは、農家や調理師の労働が無駄になっているように思われるからだろう。またそのような資源の無駄使いに、何か市場経済の失敗を見たような気がするからだろう。 とはいえ、無駄に材料を仕入…

教育の外部性はどのようなものでないのか

土地の賃借料が50万円、その土地を駐車場にする場合の駐車料金収入が30万円なら、その土地は駐車場にされないだろう。駐車サービスが駐車場の生み出す便益の全てであるとき、この判断は駐車場経営者にとってだけでなく、社会的にも最適となる。 というのは、…

学び直し教育への補助金はどのように反生産的であるのか

headlines.yahoo.co.jp 例えば土地の賃借料が50万円、その土地を駐車場にした場合の収益が30万円なら、その土地は駐車場にされるべきではない。30万円の価値を得るために50万円の価値ある資源を費やすことになるからだ。*1 一般に、投下される費用が収益を上…