経済学

債務残高対GDP比の意味

たいへんだ!税金で返さなければならない国の借金1000兆円!|GY|note 長くなるがまずは上の記事から引用する。 以上の前提で、財政の健全性、持続可能性を検討するチェックポイントを確認しましょう。 まずチェックすべきは1年間に払った利払い額です。借…

「貯蓄から投資へのシフト」の怪

「安心して日本に投資を」 「資産所得倍増プラン」表明 岸田首相は、ロンドン・シティの投資家を前に「安心して日本に投資してほしい。Invest In Kishida(岸田に投資を)です」と述べたうえで、日本の経済成長戦略の1つとして「貯蓄から投資へのシフト」を挙…

累進法人税はなぜ馬鹿げているのか

cdp-japan.jp 累進税率について勘違いしている人がいるといけないので最初に解説しておこう。現行の法人税は23%の比例税率となっている*1。つまり所得*2がいくらであれ所得×23%が納税額となる。累進税率は比例税率と異なり、所得が高いほど適用される税率…

信用創造はなぜ打ち出の小槌ではないのか──まともなマクロ経済論議のために

意外と知られていない銀行と国債のしくみ:中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義第3回 |BEST TiMES(ベストタイムズ) 最近上の記事のような議論をよく目にします。*1それはこういうものです。銀行がお金を貸すというのは数の限られた金の延べ棒を渡すのとは…

「政府の赤字は民間の黒字」?

「閉鎖経済では政府の赤字は民間の黒字に等しく、したがって政府が赤字を拡大しなければ経済成長は不可能である」との主張を見る。*1これは経験的にそうなりがちであるという主張ではなく、論理的に必ずそうなるという主張だから、誤りを示すには、政府が黒…

「会計的事実」?

次のような奇妙な「会計的事実」とやらをしばしば見かけるようになった。 例えば政府が民間企業から航空機を購入する。この資金を国債発行によってファイナンスする場合、国債購入代金が国債の買手である市中銀行から売手である政府に、両者が中央銀行に開い…

日本のGDPシェア推移の要因分解(vs G7)

日本のGDPシェアが低下して大変だ云々という話がはてブでバズっていた。どうしてGDPそのものじゃなくシェアの方にみんな興味があるのかは謎だ(後者は前者が持っている情報量を無駄に潰しているだけじゃないの?)。 GDPシェアの変化(ポイント)は 、ある国…

信用創造の話2

無リスク世界を想定するなら、企業と家計が直接やり取りする場合(ケース1)と銀行による信用創造(ケース 2)は同じことになるだろう、というのが前回の話だった。今回はシンプルな2期間モデルを示す。説明を簡単にするために限界変形率(生産可能フロンテ…

”債務負担についての誤謬”(3/3)

前回に引き続き、ブキャナン*1とワグナーの"Public Debt in a Democratic Society"から、"The Fallacies of Debt Burden"を紹介する。今回は第3回で、最終回。以下翻訳。 移転的支出の誤謬 「我々は我々自身から借りているのだ。」これは内国債がコストを時…

”債務負担についての誤謬”(2/3)

前回に引き続き、ブキャナン*1とワグナーの"Public Debt in a Democratic Society"から、"The Fallacies of Debt Burden"という議論を紹介する。第2回となる今回は、「外国債は負担を生じるが、内国債は負担を生じない」という見解について検討が加えられる…

”債務負担についての誤謬”(1/3)

今回から3回にわたって、ブキャナン(1986年ノーベル経済学賞受賞)とワグナーによって1967年に著された"Public Debt in a Democratic Society"から、"The Fallacies of Debt Burden"と題された議論を紹介する。第1回となる今回は、「負担とは現在の資源の…

日本の労働生産性に関する基本的な事実

今から言うことは大した話じゃないけど、巷の議論を見ていると意外に共有されていないようなので記事にしておく。なおここで労働生産性はGDP per hour worked (USD, constant prices, 2010 PPPs)を使っている。 日本の労働生産性は昔から低い 他の主要先進国…

「貨幣進化論」の政府・中央銀行清算をBSで表示する

貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム (新潮選書) 作者: 岩村充 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2010/09/23 メディア: 単行本(ソフトカバー) 購入: 4人 クリック: 37回 この商品を含むブログ (13件) を見る この本の第一章では小さな島の箱庭的な…

というか、JR北海道は”民営”なのか?

b.hatena.ne.jp ある人はいう、JR北海道の民営化は失敗だったと。また別の人はいう、JR北海道の民営化は間違っていなかったと。僕に言わせてもらえば、こんなものは擬似問題だ。だって、JR北海道は公営なんだから。 民営化の定義を争うつもりはないので次の…

生産性の向上が飢餓をもたらすことはできない

togetter.com 上の記事はアフリカ諸国の飢餓の原因を米国などからの安価な輸入食料に求めている。安価な輸入品との競争に負けた自国の農業が立ち行かなくなり、他に働き口もないので飢餓になったのだという。 本当に? だって自国の農業を駆逐するほど膨大で…

それでも貿易はインドを豊かにする

b.hatena.ne.jp 上の話によると、東インド会社の時代、インドの綿製品よりも遥かに安い大英帝国の綿製品がインドに流入したことにより、インドの伝統的な紡績業は壊滅してしまったという。それが大反乱を招いたとも。 本当にこれだけの話なら、英国産の綿製…

上場子会社の社外取締役設置義務化に反対する

www.nikkei.com 政府は親子で株式市場に上場している企業グループの利益相反を防ぐための新しい指針をつくる。子会社の取締役は過半を独立した社外取締役で構成するなど経営の自主性を求めるのが柱だ。 子会社を上場させるのは子会社株を売って資金を得るた…

転売の利益の本当の源泉(あるいは転売屋の正義について)

チケットの転売で利益が生じるのは、主催者の設定した値段が転売屋のそれよりも低いからだ。しかし、なぜ低いのか? この問題について、お得な価格でライト層を新たに呼び込むことが長期的な利益につながるからだ、という見解をしばしば見かけるようになった…

3個のリンゴと彼女とのデートの効用は比較できる

www.asahi.com 3個のリンゴと彼女とのデートの効用は数値では比較できない。それでも人間はその時その時の状況で選択し行動している。それが市井人の生き様というものではないか。 彼女とデートする予定がある人に、3個リンゴをあげるからデートに行かない…

空襲と設備更新の誤謬

headlines.yahoo.co.jp 戦後日本が米国を上回る高成長を遂げたのは、企業設備が空襲で破壊されたために、最新の設備に一新されたからだ、とかつて言われていたことがあった。この説には難点がある。別に空襲がなくたって設備を更新するのは自由だ。最新設備…

貯蓄から投資へ?

b.hatena.ne.jp 家計部門が預金を株式に持ち替えるには次の操作が行われる:企業部門の株式発行に応じて*1家計は預金の一部を企業部門に振込み、企業部門は振込まれた預金で銀行借入を返済*2する。さて何が起こるか? 特段何も起こらない。企業価値は資本構…

イラストの価格破壊と経済学の補助線

togetter.com イラストの価格相場が3万円であるとき、イラストを2500円で提供する人々の参入は僕らの経済をより貧しくするだろうか? 今日はちょっと変わった方法でこの問題を考えようと思う。補助線を引くのだ。 2500円でイラストを提供する人々と3万円で…

農業・市場・競争

b.hatena.ne.jp 元のツイート自体に言及したいわけじゃなく、ただそれに対する反応を見ていると、競争というものが何か酷く勘違いされている印象を受ける。政府が農家をリングに放り込んで蟲毒するようなのをイメージしているんじゃないか。しかし競争を導入…

研究者が公金で養われることを当然だとする見解について

http://b.hatena.ne.jp/entry/twitter.com/mixingale/status/929004106462642176 「研究になぜ公金をつっこむのか」って意見があるみたいだから研究活動の成果を公金を支払って一括利用する仕組みをやめて全部逐一利用料をとりたてる仕組みに変えてみたらい…

貿易収支を気にすることが不毛である根本的な理由は

貿易収支を気にすることが不毛である根本的な理由は、それが個々の経済主体の取引を特定の恣意的な仕方で集計した結果として表れる統計量にすぎないからだろう。 いま、一定の領域を持つ「世界」の中に無数の経済主体が存在している。各々の経済主体は互いに…

価格理論と駒場の思い出

昔授業を受けた先生が教科書を出したのを本屋で偶然知った。学部二年生の夏、初めて履修した経済学科目だった。社会科学の方法に疑念を持っていた僕は、集合論と解析学を使った演繹的な議論に強く興奮を覚えた。 例えば経済学の仮定する個人は「合理的経済人…

「生産狂時代」と在庫循環

grapee.jp 上のリンクは「生産狂時代」という漫画で、最近ツイッターで流行した。企業が従業員の労働時間を増やして生産を拡大するが、売上はどんどん下がってしまう 。働き過ぎで商品を買う時間が無くなったという真相だった……というストーリーだ。 もちろ…

多重課税のこと

商品を仕入れて販売している単純な会社で、海外との取引がなく、借入れもなく、在庫を持たず、従業員もいない。この会社が支払う法人税は(売上ー仕入)×法人税率となり、消費税は(売上ー仕入)×消費税率となる。このような単純な会社のみから成る世界では…

余剰資金よりもむしろ利益剰余金に課税する方がマシである

news.yahoo.co.jp 内部留保に課税するなら貸借対照表の右側(利益剰余金)ではなく、左側(資産)の余剰資金に課税すべき、という意見を見かける。僕の見解は逆だ。僕はあらゆる内部留保課税に反対だが、あえて課税するなら余剰資金ではなく、利益剰余金を課…

国境と経済と独立と収奪と

www.theguardian.com カタルーニャが独立すればスペインはGDPの20%を失う。もちろん、これによってスペインの人々の生活水準が20%下がったりはしない。カタルーニャとその他のスペインは、政治が邪魔をしない限り、今まで通り経済活動を続けるだろう。 そし…