イラストの価格破壊と経済学の補助線

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イラストの価格相場が3万円であるとき、イラストを2500円で提供する人々の参入は僕らの経済をより貧しくするだろうか? 今日はちょっと変わった方法でこの問題を考えようと思う。補助線を引くのだ。

 2500円でイラストを提供する人々と3万円でイラストを提供する人々との間に国境線を引いてみる。するとこの問題が、中国から例えば安い野菜を輸入することが望ましいか、というのと同じ形をしていることが分かる。

 したがってその答えは、2500円で仕事を請けるイラストレーターの出現は既存のイラストレーターの所得を低下させるが、*1それによる経済厚生の増加は仮に彼らの所得の低下を補ったとしても余りある、というものになる。

 イラストレーターに払われる金額が減ったにどうして経済が豊かになるのかと不思議に思う人は、買い手が残りのお金を他のことに使えるのを忘れている。900円の野菜が400円で買えるようになれば、残った500円でもう一品買える。

 昨日の所得で買えなかったものが今日の所得で買えることは、経済的に豊かになることそのものだ。*2中国が安く野菜を売ってくれることが僕らを豊かにするように、安くイラストを売ってくれる人々は僕らをより豊かにしてくれる。

*1:だから既存のイラストレーターが反発するのは不合理なことではない。関税撤廃に農家が反発するのが不合理でないのと同じように。

*2:というより、そもそも所得とは表示された金額ではなく購買力によって定義すべきものである。給料が何円増減しようが、買えるものが同じなら豊かになったとも貧しくなったとも言えないだろう。名目GNPを実質GNPにする作業というのは、要するにこの調整である。