なぜ金利は椅子取りゲームではないのか

次のようなお話を聞いたことはないだろうか?

銀行は人々にお金を貸すが、返すときには利子が付くので、その分のお金をどこかから集めてこなければならない。ところが最初に貸したときには利子分のお金は発行されていないので、お金の量全体が増えなければ、返済することができない破産者が必ず出る。だから人々はお金を返すために、銀行からの借入を永久に増やし続けなければならない。 

 そしてこの手の話*1は、だから資本主義は必ず崩壊するのだとか何とかいう話に続く。さて、仮にこの話が正しければ、借入がただ一回だけ行われ、その返済期日に元利金のすべてが返済されなければならない(借り換えや追加の貸し出しが行われない)世界では、必ず破産者が出ることになる。本当か?

 まず単純なケースとして、銀行の貸出金利と預金金利が同一のケースを考えよう。企業は100の原価で生産した商品を、いくらでもいいが、120で売却するとしよう。このとき、20%を超える金利を提示されても企業は借りる訳がないので、金利は20%以下となる。ここでは金利はちょうど20%としよう。

 以下、各部門のBSの推移を示す。

企業が銀行から100借りる。

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企業は商品の生産を行い、賃金として家計に100支払う。

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利子20の発生。

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企業は家計に商品を売却し、代金として120受け取る。

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 後は企業が家計から受け取った120で銀行からの借入120を返済してオシマイだ。冒頭のお話は預金にも金利が付くという単純な事実を忘れている。銀行からの借入に金利が付くように、銀行への貸しである預金にも金利が付くので、銀行の貸出金利と預金金利が同一である限り帳尻が合う。

  では、銀行の貸出金利と預金金利が異なるケースではどうか? 企業が銀行から借りるときには先のケースと同様に20%の金利が付くが、預金には金利が付かないものとする。

企業は銀行から100借りる。

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企業は商品の生産を行い、賃金として家計に100を支払う。ここまでは先のケースと同じ。

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銀行の貸出(=企業の借入)についてのみ、利子20の発生。

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銀行は利益20を配当金として家計に支払う。

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以下、先のケースと同じ。企業は家計に商品を売却し、代金として120受け取り、それで銀行に借入120を返済してオシマイだ。

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 冒頭のお話は、銀行も究極的には家計によって所有されているという単純な事実を忘れている。労働者としての家計に分配された賃金が100、銀行の株主としての家計に分配された利益が20、その合計が生産された商品の価値120で帳尻が合う。

*1:どうやら安部芳裕「金融のしくみは全部ロスチャイルドが作った」辺りがこの手の話の出処らしい(別に薦めないのでリンクは貼らない)。