累進所得税は応益負担か?

所得の多い人は、その所得を稼ぎ出すためにそれだけ多くの公的インフラを使用しているはずであり、したがって累進課税は応益負担の観点から正当化される、という見解を見かけた。が、この理由付けは相当無理がある、と思う。

 Aさんは(税引き前で)所得300万円のタクシードライバーであり、同じくタクシードライバーのBさんは所得900万円である。Aさんの納税額は20万円、Bさんの納税額は143万円となるが、BさんはAさんの3倍の所得を稼ぐために、7倍多く道路を走ったりしたのだろうか?

 またBさんの所得が330万円丁度になるときに受け取る1万円には1千円の税金がかかり、その次に乗せた客を全く同じルートで運んで受け取る1万円には2千円の税金がかかるが、前者の場合と後者の場合とで、公的インフラの使用にどのような違いがあるというのだろうか?

 さらに、AさんとBさんが結婚したとして、これまで通り300万円・900万円をそれぞれ稼げば納税額は2人合わせて163万円であるが、600万円ずつ稼ぐことにした場合には納税額は154万円となる。これまでBさんがしていた仕事の一部がAさんにそのまま移っただけなのに、公的インフラの使用が少なくなったなどとどうして言えるだろうか?

おまけ

 ついでにもう一つ。公的インフラの使用度が累進課税の理由なら法人税の累進というのも考えてよいはずである。もし累進法人税が創設された場合、企業は事業部ごと・地域ごと・店舗ごとなど分社化を進めてタックスブラケットを下げるに違いない。経済的実態がそのままに法的な立て付けが変わっただけで納税額が変化するのは応益負担に明らかに反する。これはまた、累進法人税が存在しないのに累進所得税が存在する理由を示唆しているように思われる。つまり、法人は分割できるが自然人は分割できない。