政策融資はなぜ補助金を意味するのか

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天然ガス火力と異なり、設備費の比率が大きい石炭火力は、低金利融資がなければ成り立ちません。これまでは、電力事業者が将来を見越して石炭火力の新技術を導入できましたが、自由化された市場メカニズムでは不可能です。つまり政策でカバーするしかないのです。

 上の記事の主張はこうだ。石炭火力の輸出は有望な産業だが、事業者が自ら資金調達した場合、借入金利が高く、必ずしも利益が出ない。そこで石炭火力輸出のための資金を、政府が事業者に低金利で融資すべきだ……。*1

 でもこんな話はおかしい。民間の銀行や投資家が低金利で資金を貸し出せば採算が取れないのに、民間が政府に税金を払って、その税金を貸し出すというプロセスを間に挟んだだけで、突然採算が取れるようになるはずもない。

 カラクリはこうだ。民間なら高い金利を要求するところ、政府は民間から税金を集めて、それを勝手に低い金利で貸し出す。その金利差は、民間が自ら資金を貸し付けていれば得られたはずの逸失利益を意味している。

 つまり政府が低金利で融資を実施するときには、事業者が得をする裏で納税者が損失を被る。政府が低利で融資してくれれば利益が出る、という意見は、補助金が貰えれば利益が出ると言っているに等しく、無意味で有害だ。

 冒頭の記事の執筆者は発電所を建設する重工業の現場でキャリアを積み、その後は産官連携のような分野で活躍している人物のようだ。低金利で融資を受けることができれば重工業が助かる、というのは現場を見てきた人間の素直な感想なのだろう。その企業、その産業だけの利益を考える限り、低金利の融資は得になる。しかし政策は全体を見なければいけない。その背後にある納税者の負担が無視されてはいけない。

*1:JBICを使ったスキームを想定しているようだが、政府が100%出資する政策金融機関なので政府自身が融資するのと同じだ。