農業への補助金が僕らを貧しくする

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具体的には、豚や肉牛・乳牛を食用に売却した際に、飼育経費が回収できず損失が生じた場合、赤字の一部を補填する補助金制度について、現在は赤字の8割相当額を補助しているが、9割補助への早期引き上げを検討する。

  豚肉を生産するためのコスト*1が500円だという事実は、500円のコストをかけて豚肉を生産すべきことを意味しない。消費財は消費されるためにある。だからその価値は、消費者によって決められるほかない。消費者の評価を離れた、商品それ自体の価値というものはありはしない。

 消費者が豚肉に700円まで払うつもりがあるとする。すると利益が出るので、豚肉を500円で製造している農家は生産を増やす。これは資源の効率的利用の観点から見て望ましいことだ。700円の価値あるものが500円のコストで作られているのだから、世の中には単位あたり200円分だけ、新たな価値が生まれる。

 あるいは消費者が豚肉に300円まで払うつもりがあるとする。すると赤字が出るので、豚肉を500円で製造している農家は生産を減らす。これは資源の効率的利用の観点から見て望ましいことだ。なぜなら、もしこの状況で豚肉の生産量を減らさなければ、300円の価値を生み出すために500円の価値ある資源を犠牲にしてしまうからだ。

 コストが500円より下がらないのは、同じ資源によって500円以上の価値を生み出すことのできる他の生産者が、その資源を需要しているからだ。豚肉の価格が下がる。農家は豚肉の生産を減らす。このことによって豚肉の生産から解放された労働力や資本が、より高い価値を生産する他の事業や企業に移動する。経済はこのようにして回る。

 ここで政府が特定産業の赤字を補助金で埋め合わせれば、資源の移動は妨げられる。だから政府は、農家の赤字を補助金で補填してはいけない。それは豚肉の生産を維持するかもしれないが、そのとき僕らは、豚肉の代わりに生産できたはずの、もっと価値の高いものを失うことになる。*2

*1:ここではコストという言葉を経済学的な意味で使う。つまり企業会計上の費用に加えて、資本コストをも含む。これに対応して利益は超過利潤、赤字はマイナスの超過利潤の意味で用いている。本文では読者の直感的な理解のために、単に「利益」「赤字」とした。

*2:農家の所得減少を問題にするのなら、例えば消費者としての農家(あるいは農家だった人)に生産と関係なく一定の現金を配る方が良い。赤字の補填のように産業間の資源配分を歪める手段を用いるべきではない。