なぜ業績不振でも民営化は僕らの経済を豊かにするのか

biz-journal.jp

まったく当たり前だけど、民間企業には業績良好の企業もあるし、業績不振の企業もある。これもまったく当たり前だけど、業績不振はその企業のビジネスの失敗を意味していても、市場メカニズムの失敗を意味していない。 

 あるビジネスが市場の平均的な水準に比べて十分な利益を上げていないとする。賢明な経営者は業績不振のこのビジネスを縮小するだろう。ビジネスの無軌道な拡大は、銀行や株主が許さないだろう。*1

 これは僕らの経済にとって良いことだ。利益とは、財やサービスに対する消費者の評価としての販売価格と、それを生産するために投入された資源価格との差を意味する。業績不振のビジネスの縮小は、そこに振り向られていた価値ある資源を解放し、より高い価値を生み出す他の事業や企業のために移動させる。

 市場はこのように価格をシグナルとして、限られた資源をより高い価値を生み出すように生産に振り向ける。個別の企業が赤字になったり倒産したりするのはその調整過程だ。その経営者は無能さを責められるべきかもしれないけど、不振事業の整理や倒産は僕らの経済がより豊かになるために必要なことだ。

 郵政が民営化されなければ、業績の不振など素知らぬ顔で事業が継続されていただろう。それは悪いことだ。なぜならそれは限られた資源をより低い価値しか生まない財やサービスの生産に振り向け続けることを、だから僕らの経済をより貧しくすることを意味するからだ。

*1:もちろん、今後そのビジネスが化けると予想して、あえて資金を提供するのは自由だ。投資家が自分の財布から資金を出す限りは。

強力な解雇規制はいかにして人材派遣会社の「中抜き」を作り出すのか

www.nikkei.com

利用企業は人件費を変動費にできるほか、派遣人材の質に悩まされなくなる。事業再編のペースが速いIT(情報技術)業界やゲーム業界での利用を見込む。

 解雇が難しければ、人を雇うことはどうしたってリスクになる。仕事がなくなっても人件費を生み続けるし、期待した成果を上げなくても別の人材に入れ替えることができない。

 そこで直接に人を雇うのじゃなく、派遣会社が利用される。仕事がなくなれば派遣を止めてもらえばいいし、期待した成果を上げなければ代わりに別の人を派遣してもらえばいい。

 このとき、仕事の有無や人材の質についてのリスクは派遣元の企業が負っている。「中抜き」と批判されることもある派遣会社の利益はその対価だ。人材派遣業とは「人を雇うリスク」を取引する商売だといえる。

 こんにちの厳しい解雇規制は「人を雇うリスク」を労働者自ら負うことを厳しく妨げている。このために労働者は必然的に「中抜き」されてしまう。「中抜き」を防ぐには労働者自身が解雇リスクを負うことができなきゃならない。そのとき労働者は解雇リスクとともに、「中抜き」されていた対価を自らの手に取り戻すことができる。

 

民間に負えないリスクは官製ファンドも負ってはいけない

www.nikkei.com

「次世代の国富を担う産業創出」を掲げ、民間で負えないリスク資金を注ぐが、ベンチャー育成で苦しむ姿が浮かんできた。

リスクには、資金提供者が負っても良いと考える適切な水準がある。成功した場合のリターンが極めて高いと見込まれるなら、資金提供者は比較的大きなリスクも許容するだろう。あるいは十分に安全なプロジェクトなら、低いリターンでも許容するだろう。

 リスクを負えないという理由で資金提供者がプロジェクトから撤退したとすれば、それは期待されるリターンに比べてプロジェクトの危険が大きすぎるという資金提供者の判断を示している。

 ここでプロジェクトを継続するために出資契約に無理やりサインを強要することは、もちろん良いことではない。それは資金提供者に、リターンに見合わないリスクを負わせることになるからだ。あなたがリスクを取りたがらないから、私が代わりに決断してあげるんですよ、と言われても、余計なお世話だと返すしかない。

 民間にリスク資金の提供者があらわれないのは、リターンがリスクに見合わないという民間の判断を示している。私が代わりに決断してあげますよ、と官製ファンドが民間から取り上げた税金を危険なプロジェクトに注ぎ込むことは、だから、まったく余計なお世話と言うしかない。それは政府が僕ら納税者に、リターンに見合わないリスクを無理やり負わせているだけだ。

移籍制限の禁止がいかにして芸能人の機会を奪うか

www3.nhk.or.jp

伝統的な製造業なら、例えば工場を建設することが投資になる。それによって構築された資産の価値は、銀行などの債権者が持っていく部分を除けば、投資を行った企業自身の*1ものだ。

 工員がライバル他社に引き抜かれても、当然だけど、その工員が工場の設備を他社に持っていってしまったりはしない。仮にそんなことが認められれば、企業は自社の資金で構築した資産を、工員にタダでくれてやるリスクに常に晒されることになる。それは企業による投資を減らし、工員の賃金や雇用を減らすだろう。

 ところが、現実に、そのようなリスクに晒されてしまう業種が存在する。芸能事務所がそれだ。芸能事務所にとっての主な投資は、芸能人の技能を高めるためのレッスン料や、知名度を高めるための広告宣伝費だ。*2

 芸能事務所が自社の資金で芸能人に技能や知名度を与えても、工場建設の場合と違って、芸能人が移籍すれば、それらの資産はライバル他社に持って行かれてしまう。そのリスクを念頭に置いて投資決定をせざるをえない芸能事務所は、リスクの分だけ芸能人に支払う報酬を割り引くか、芸能人に対する投資を減らすことになる。

 ここで移籍制限規定を結ぶことができることは、芸能事務所と芸能人の双方にとって利益になる。芸能事務所は、移籍のリスクを考えれば投資できなかった芸能人にもレッスンや広告宣伝を与えることができるようになるし、芸能人は、その規定を飲まなければ得られなかった技能や知名度を装備することができるからだ。*3

 移籍制限規定を結ぶことが法律や行政によって禁止されるなら、芸能事務所は芸能人に対する投資を減らす。芸能人の報酬は減り、あるいは芸能人として活躍できる機会自体が減ることになる。

 投資や報酬、雇用に影響することなく移籍制限規定だけを禁止できると考えているなら、それはひどく軽率なことだ。善意の政策が必ずしも善き結果をもたらさないことを僕らは理解する必要がある。

*1:だから究極的には株主の。

*2:これらは現行の会計基準上、即時費用化されるが、将来にわたる収益に対応するという意味で資産性がある。

*3:芸能人が移籍禁止規定を飲みたくなければ、それも自由だ。大事なのは双方の自発的合意によってリスク負担が決定できることにある。

政府、納税者、余剰財産

www.yomiuri.co.jp

市の職員官舎跡地(都島区)を85年に手放した際の売却益約10億円の財産保全が主な目的だった。周辺では当時、リゾート開発が進んで地価が高騰していたといい、更なる値上がりを見込んで購入したとみられる。

 なに、当時はバブルの崩壊なんてわからなかったのだから、仕方がないじゃないかって? なるほど、それはそうだ。でも問題の根本は、政府が買った土地の値段が上がったとか下がったとか、そんな話じゃない。

 政府が財産保全のために土地を買う、というのがそもそもおかしい。徴税力を持つ政府がどうして余剰財産を持たなければいけないのか? お金が余ったのなら納税者に返すべきだ。そんなこと当たり前じゃないか?*1

しかし市は購入当時、具体的な利用計画を策定していなかった。92年に自然公園を整備する計画をまとめたが、水道事業の収支悪化で中止。その後も植樹事業や市民対象の森林体験ツアーを行った程度で、有効活用されていなかった。

  僕らは民間では供給されることが困難だろうサービスを受けるために税金を出し合っている。政府が何をなすべきかが先にあり、そのためにお金を出す。何の計画もないけど、資金が余ったからとりあえず土地を買おう、なんてとんでもない話だ。

 財産を保全したかったら、定期預金に入れるか、証券を買うか、それは僕らがこっちで決める。だから政府が納税者の財産を保全してやろうなんて余計なお世話だ。お金が余ったら、それは取り過ぎていただけだ。僕らに返してください。

*1:返還のための事務コストが気にかかるって? 翌年の住民税を減税すれば済む。

政府はなぜ大きすぎるリスクをとるのか

www.businessinsider.jp

民間企業が取れるリスクには限度がある。だから政府がリスクを引き受け、民間企業を後押しする必要がある。それによって民間だけでは成し得ないリスクある投資が可能になり、経済が豊かになるのだ……。

   このような考えは、誤っている。

原発の建設コストは安く見積もっても1基3000億円。建設には数千人が関わる。海外で良質な労働力を確保するのは至難の技であり、少し工期が遅れるだけで莫大な損失が出る。3000億円を何十年もかけて回収するわけだが、その間に事故やクーデターが起きて資金が回収できなくなるリスクもある。リスクに敏感な商社の丸紅は、早々とこの構想から降りた。

 海外での原発投資には、民間企業では背負いきれないリスクがあった。少なくとも丸紅はそう判断した。だが東芝原発ビジネスに踏み込んだ。経産省の強い後押しがあったからだ。

 日の丸がケツを持ってくれるなら安心だ……。経産省のバックアップによって東芝原発投資に踏み出すことができた。 民間だけではリスクが大きすぎて不可能だった投資が、政府のおかげで実現できた。民間がリスクを怖がっているときには、政府の後押しが必要なのだ!

 だがこれは、おかしい。なぜならリスクとは、「労働力が限られていること」「事故が起きること」「クーデターが起きること」「長期が後期に渡るので先が読めないこと」のはずだったからだ。これらのリスクはプロジェクトの内容自体に根ざしている。民間だけで実施しようが、政府が後押ししようが消えはしない。リスクは一体どこに行ってしまったのか?

経産省は今、東芝半導体メモリ事業売却にも首を突っ込み、別働隊である産業革新機構を動かして同事業に4000億円もの血税を投入しようとしている。原発推進の国策で東芝を経営危機に追い込んでしまった埋め合わせだとしたら、納税者は救われない。

 今や答えが明らかになった。民間企業は自らの資金で責任を負う。だからリスクを怖がる。それは悪いことではなかった。そのおかげで過度に危険なビジネスに手を出さずに済むのだ。

 政府は責任を取らない。責任を取るのは納税者だ。政府はリスクを引き受けない。リスクは常に納税者に転嫁されている。だから政府は過大なリスクを取り続ける。

 民間だけでは実行できないほどリスクの大きい投資が政府のおかげで可能になるというのは、そもそも良いことではなかったのだ。それは官僚が、僕ら納税者の血税を勝手に割りの合わないギャンブルにつぎ込んでいることを意味するにすぎない。そして連中は、負けても自らの懐を痛めることがない。 

賃金を上げるにはどうすればいいのか

IMFの記事から一部を紹介する。以下翻訳。*1

 

失業率はここ25年で最低の水準となり、求人倍率は史上最高となっている。しかし「正」社員(フルタイムの雇用を意味する)に関して賃金上昇圧力の高まりはみられない。この事実は問題となる。より高い賃金はより高い家計所得を意味し、それは一層強い消費とインフレーションを促進するからだ。

 日本における賃金の伸びの低さの一部は、ベースアップ交渉の背景となるインフレ率が今年はあまり伸びなかったせいもあるが、それと同じくらいには、限定された雇用の流動性、終身雇用、そして雇用保障への選好といった構造的な要因によって引き起こされている。

 企業間での従業員の移動性の促進、雇用形態による給与と労働環境の違いの縮小、同一労働同一賃金の確保など、賃金と経済成長を加速する労働市場改革は、資源配分を改善し、賃金上昇圧力を増大させ、そして通貨再膨張(re-inflation)を容易にするだろう。

*1:この記事には賛成できる部分とそうでない部分があるが、今日は僕が重要と思った箇所の紹介にとどめる。