それでも中古車市場はうまく回っているし、労働市場もうまく回る

アカロフの中古車市場というゲーム理論のモデルがある。中古車の品質は乗ってみるまで分からないから、売買取引がうまくが成立しない。極端なケースでは、ある種の中古車が市場にまったく供給されないという結論が得られる。

 ここで話が終わっちゃいけない。なんでかっていうと、現に中古車市場は存在しているから。情報が非対称という意味ではほとんどあらゆる商品がそうなのであって、むしろ非対称なのにうまく回っている理由こそが考察の対象になる。

 情報の非対称性を解決する方法はいくつかあるけど、例えば返品可能だったら買い手は品質が分からない中古車にも手を出せる。労働市場も同じ話で、とりあえず雇い・雇われてから雇用の継続や条件を柔軟に再交渉できるなら、事前に情報を知らなかったことで不利な契約を結ぶことは回避できる。

 逆に再交渉ができないなら、経営者にとって労働者を雇うことは、返品不能の状況で中古車を買うようなものになる。一度雇ってしまうことのリスクが大きいから、経営者は正社員の採用に慎重にならざるをえない。

 つまり労働市場に情報の非対称性は存在するけど、自由な市場はそれこみでちゃんと回っていく。むしろ経営者の再交渉の機会を制限する労働規制が情報の非対称性を問題のあるものにしてしまう。