LED、電気料金、CO2: 市場の内側と外側について

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東京都によれば、60ワットの白熱電球100万個がLED電球に置き換わると、年間約23.4億円の電気料金削減、年間約4.4万トンの二酸化炭素(CO2)削減効果があるという。

問題: LED電球への交換による電気料金削減の恩恵を受けるのは誰か?

答え: LED電球を使用する消費者。

 なぜなら電気料金削減の効果は、消費者が支払う電気料金に反映されているから。また電気料金削減の効果が電球を交換するに値するほどであれば、政府が補助しなくても、消費者は勝手にLED電球への交換を進める。だって、その方が得なんだから。

 政府の補助がなければLED電球への交換が進まないのなら、それはLED電球の購入価格(=LED電球の製造コスト等)が、削減される電気料金に比べて高いからだ。ということは、政府はLED電球への交換を補助してはならない。もし補助してしまえば、電気料金を削減するために、もっと高いコストを僕らの社会は支払う羽目になる。*1

 第2問。

問題: LED電球への交換によるCO2削減の恩恵を受けるのは誰か?*2

答え: みんな。

 第1問との重要な違いに、CO2の方には価格が付いていない、ということがある。もしCO2を排出して地球環境に悪影響を与えた場合、その分だけ追加料金を支払わなきゃいけないとしたら? 僕らは電気料金だけじゃなく、その分も加味してLED電球に交換するかどうかを決定するだろう。現実には追加料金は取られないから、CO2排出量は過大になる。

 第1問の場合、コストは電気料金という価格に反映されていた。このように、あるモノに価格がついている場合、その最適な配分は消費者や生産者の自由な行動によって自然と達成される。つまり、市場メカニズムの内側にある。*3

 第2問の場合、CO2排出のコストは価格に反映されていなかった。これは市場メカニズムの外側の出来事ということになる。*4今回の東京都の政策を電気料金削減の効果から正当化することは不可能で、ただCO2削減の観点からだけ、正当化する余地は生まれる。

*1:おまけにこのコストは電気料金削減の恩恵を受ける人からそうでない人に転嫁されるので、公平さをまったく欠いている。

*2:CO2が地球環境に与える悪影響は実は大したことないんじゃないか、と考える人々もいるらしいが、ここでは何かしらの悪影響があるものと仮定しよう。

*3:いわゆる「見えざる手」。

*4:経済学の言葉で「外部性」と呼ばれるものがこれだ。僕の見る限り「外部性」という言葉は経済学を体系的に学んでいない人々からはルーズに使用される傾向があって、政府介入を過度に正当化する根拠に使われやしないかと危惧している。外部性の問題を考えるときは、「これには価格がついているか?」と考えるようにしてもらいたい。