なぜ政府が資格取得を補助してはいけないのか

itpro.nikkeibp.co.jp

IT関連の資格取得講座を受講する場合、2017年10月以降、費用の補助を受けられるケースが増える。「教育訓練給付制度」の「専門実践教育訓練」対象講座の指定要件が緩和されるからだ。これによって、指定講座が拡大すると見込まれる。

 たとい素晴らしい投資案件であっても、見境なく規模を拡大すれば採算割れを免れない。どんな投資案件にも、それ以上規模を拡大すべきではない適切な投資水準というものがある。

 資格を取得することは、技能やその証明という無形資産への投資だといえる。*1どんな投資にも言えることだけど、それは追加的な投資のリターンがコストを上回っている限りにおいてのみ価値を生みだす。

 自らの負担で資格の取得を目指す場合、追加的な投資のリターンがコストを下回るなら、彼はそれ以上の投資を行わない。けれど政府が資格取得を補助する場合、自己負担が小さくなるために、彼は補助金がなかったなら目指さなかったはずの資格までをも取得する。

 これはまさにこの政策の目的であり、これによって彼の個人的な給料は増加するかもしれない。しかしその裏では、補助金の原資である税金や社会保険を通して、投資コストの一部が他の人々に押し付けられている。

 コストの押し付けができることで、資格への投資は必然的に適切な投資水準を超えて過大になる。そのとき僕らの社会は全体として、追加的なリターンを上回るコストを負担する。だから資格取得に対する補助金は、それがなかった場合よりも、僕らの経済社会を必ず貧しくしてしまう。

*1:独占資格の場合には別の問題がある。これはいずれ論じるだろう。