例えば僕が1000万円を拠出して企業を設立し、株主になる。1年間操業して、この会社が200万円の当期純利益を獲得する。当期純利益というのは、売上から給料やら税金やらの費用をすべて支払った後の残余のことだ。だから当期純利益は、株主たる僕のものだ。*1
この200万円は僕に配当されるわけだが、配当以外にもう一つの使い道がある。企業に再投下するのだ。例えば200万円のうち50万円だけを配当し、残りの150万円は設備投資など事業の拡大に使う。この150万円が俗に言う内部留保で、企業会計の言葉を使えば利益剰余金だ。
これは一度200万円すべてを僕に配当し、そのうち150万円を改めて企業に拠出したのと同じことだといえる。つまり、内部留保はエクイティファイナンスの一種に他ならない。内部留保というのは、株主への配当を留保しているからそう呼ばれるのだ。
だから、内部留保が過去最高額だとか、さらにはそれが悪いことかのようにいうのはナンセンスだ。企業が利益のすべてを配当し続けることはまずないのだから、当然の結果として内部留保は毎年積み上がっていく。グラフを見れば一目瞭然で、利益剰余金の増加を不況の徴のように語るのははっきりと誤っている。*2企業が健全に成長している限り、株主が利益を再投下するのは何ら悪いことではない。
もし内部留保が減少したとすれば、そちらの方にこそよほど問題がある。それは株主の蓄積してきた資本が解体されていることを意味するからだ。オイルショック、バブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災の時期に内部留保は停滞・減少した。企業が利益を出せず、配当のために内部留保を取り崩さざるを得なかったからだ。