内部留保は何を留保しているのか

内部留保はとても重要な概念だ。*1内部留保を理解することは貸借対照表と損益計算書の関係を理解することに等しい。したがってそれは複式簿記を理解することほとんどそのものだ。

会社を設立する

僕が100百万円を元手に会社を設立し株主になる。これが設立時の貸借対照表だ。

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 左側は会社にどんな財産が存在するかを示す。その形態は問わない。*2右側は誰が会社に財産を拠出したかを示す。資本とは株主が拠出した金額を意味する。*3 *4

会社を操業する

その後1年間の操業した成果が損益計算書だ。例えばこう。

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利益を配当する

利益はすべて株主たる僕のものだ。*5いやっほう! 僕はこの利益を配当として会社から受け取る。それで好きなものを食べてもいいし、他の会社の株を買ってもいい。

配当を再拠出する

でも僕はちょっと考える。この会社の利益率はすごくいい。それなら好きなものを食べるのは我慢して、配当の30百万円も追加で拠出しようじゃないか。*6

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 仮に同じ利益率が維持できれば翌年度の損益計算書はこうなる。

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 こうして会社は成長していく。やったね。

内部留保は配当の留保

上では利益をすべて配当し、改めて会社に拠出するという話だった。内部留保とはこの配当を初めから会社に残した場合をいう。*7要するに内部留保とは配当を留保しているのであり、それは株式市場からの資金調達と基本的に変わらない。*8 *9

*1:けれど僕はこの言葉を好まない。会計上厳密に使用されている「利益剰余金」を用いる方が誤解が少ないと思う。

*2:設立時点ならふつうは現金預金だろうけど、他の可能性として、100百万円分の土地や有価証券を現物出資したかもしれない。また今後、事業が運営される中で資産は刻々と形を変えていく。

*3:資本、資本準備金、株主資本などの用語が使い分けられることもある。また負債資本という表現も存在するから厄介だ。ここでは株主資本の意味で使う。

*4:仮にこの時点で会社を解散するなら、当然だけど、左側に計上されている100百万円の資産のすべては株主たる僕に返ってくる。

*5:従業員に支払う給料は原価などの費用に含まれる。利益計算は株主のために行うので、株主のものにならない部分は定義上利益から除外される。

*6:だからこの時点で会社を解散しても、当然だけど、左側に計上されている130百万円の資産のすべては株主たる僕に返ってくる。

*7:したがって内部留保が株主に帰属するのは当然で、内部留保との関係で賃上げを要求することはできない。賃上げを要求するなら「内部留保が多すぎる」ではなく、「利益が多すぎる」と主張する方が理屈に合うだろう。

*8:言い換えれば、株式発行費用が無視できるなら、企業が配当直後に新株を発行して既存株主に割り当てることと内部留保を積み増すことは経済的実体として区別できない。

*9:だから内部留保の過大が問題になるとすれば次のような場合だ:企業の限界利益率が低いため株主に資本を返すべきなのに、企業のガバナンスが機能せず、十分な配当や自己株式取得が行われない場合。