自己株式はなぜ存在しないのか

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自己株式の取得(上の記事でいう自社株買い)の意味を理解したいなら、新株発行の逆を考えればいい。

 新株発行は企業という法人格が、利益の配当を受ける権利(=株式)を株主に渡すことと引き換えに、株主から資金の拠出を受けることだ。株主から拠出された資金額は資本とよばれる。

 一方、自己株式の取得は株式を株主から受け取ることと引き換えに、株主に資金を支払うことだ。新株発行とちょうど逆のことが起きているのが分かるだろう。要するに自己株式の取得は、株主から拠出された資本の払い戻しを意味している。

 上の記事を解説するならこういうことだ。企業は株主から拠出された資金を株主のために運用する責任を負っている。有望な投資案件がないときには、企業は自分の手に余る資金を株主に返すために自己株式を買う。株主を納得させられる投資案件が増えれば、投資から得られる利益を配当した方がいいので、自己株式の取得は減る。

 自己株式は企業会計上、資産ではなく株主資本のマイナスとして処理される。ここまでの話が分かれば、この処理の意味も当然に理解されるはずだ。企業が自分で自分に配当したところで*1会社財産に変動はない。自己株式は企業自身にとって価値がなく、取得の際に払い戻した金額だけ株主資本を減らすことになる。

 だから、実は自己株式というのは単に制度の存在で、経済的実態としては存在しないといえる。取得した企業自身にとっては価値がないから、自己株式は取得した瞬間に消滅する。*2そして自己株式が売却される場合には、それは新たに資金の拠出を受けるということだから、存在している株式が売りに出されるというより、新株が発行されていることになる。

*1:もっとも会社法の規定によって自己株式には配当を受ける権利がないが。

*2:もちろん企業が自己株式の償却を決定するまでは法的にも財務諸表上も「自己株式」は残るけど、償却を決定する前後で会社財産の実態は何も変わらない。