減損の非対称性

100億円の事業投資を行う次の2つの状況を考える。

ケースA:利益率が2%で無リスクのプロジェクトに100億円を投下する。

ケースB:利益率の期待値が2%であるが、プラスマイナス5%の範囲で利益率が変動するプロジェクト甲に50億円を投下する。残りの50億円を利益率の期待値が同じく2%であるが、プロジェクト甲と逆向きに利益率が変動するプロジェクト乙に投下し、プロジェクト甲のリスクを完全にヘッジする。

 結局ケースA、Bのどちらも利益率2%の無リスク投資である。が、ケースBの場合、例えば投資直後にプロジェクト甲の利益率が▲3%となることが確定し、プロジェクト乙の利益率が7%となることが確定することがあり得る。

  このとき企業は、プロジェクト甲と乙が同一の減損単位に属することを主張できない限り、プロジェクト甲について100億円×▲3%=3億円の減損を計上せざるをえない。一方、ケースAについてはこのような減損は生じない。

 減損というのは要するに将来損失の先取りなのだが、将来利益は先取りされないという非対称性のために、このように経済的実質が同一の2つのケースについて異なる会計処理が生じてしまうことが起こる。*1

*1:ではどうすればよいのかという話だが、事業投資に関して将来予測に基づく情報を財務諸表の本表に開示する発想自体が根本的に誤っているのではないかと僕は最近考えることがある。すなわち減損会計は廃止し、財務諸表の本表では事業資産の価値は常に取得原価によって表示し、代わりに投資から生じる損益の将来予測を注記すればよい。