規制における品質と量

企業ファイナンスではよく知られていることだけど、ROAなどの利益率指標のみに頼ると判断を誤る。最も利益率の低い事業を切り捨てれば企業全体の利益率は上がるに決まっている。けれど、その事業でもネットキャッシュインフローの割引現在価値がプラスなら、企業価値に貢献するので切り捨ててはいけない。

 獣医師などの規制産業の品質にも同じ問題が潜んでいる。医療ミスの発生確率が0.2%の高品質の医療と2%の低品質の医療があったとして、規制によって低品質の医療を排除すれば医療ミスの発生確率は下がる。が、低品質の医療しか受診できない、例えば貧しい患者や患畜は医療を受けられないまま死ぬ。

 この種の規制産業に関しては、品質の低下が絶対にあってはならないことかのような言説をしばしば耳にする。その発想は経営判断に際してROAに固執することに似ている。最も品質の低いものを排除すれば品質の平均は上がるに決まっている。けれど品質の平均を下げても量を増やすべきことはふつうにあり得る。