東芝で学ぶ内部統制監査「不適正」の意味

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上場企業が作成した内部統制報告書に監査法人の不適正意見がつくのは「きわめてまれなケース」(金融庁幹部)だ。過去5年で不適正意見がついた例はない。

 実のところ内部統制の不備はままあることで、それほど珍しくない。けれど内部統制監査で不適正意見が出るのは稀だ。日本の内部統制監査制度では内部統制に不備があっても、それで監査人の不適正意見が出るわけじゃない。

 一般に監査というのは監査すべき対象があって、それに対して監査人が意見を表明する。内部統制監査の場合には、まず会社が「内部統制報告書」で内部統制が有効かどうかを自ら報告する。監査人はその報告書を監査対象として、「内部統制監査報告書」で監査意見を述べる。

 だから内部統制に開示すべき重要な不備があったとしても、我が社の内部統制は有効じゃありませんと会社が正しく報告すれば、監査人は適正意見を表明する。監査意見の対象は内部統制自体じゃなく会社の報告で、その報告自体は正しいからだ。

 つまり内部統制監査で不適正意見が出るのはただ、内部統制が有効だと会社が報告し、そのうえ、事実は報告に反し不備があると監査人が考える場合だけとなる。内部統制監査における不適正意見は会社と監査人の意見の食い違いを示している。

 今回東芝は、原発投資の失敗による巨額損失は当期になるまで認識できなかったと主張する。一方監査人は、前期に認識すべきだったと意見している。このこと自体は内部統制監査じゃなく財務諸表監査の除外事項*1となる。

 損失の発生自体は東芝も認めているわけで、その認識時期が東芝の現在の財務状態にダイレクトに影響するわけじゃない。だから財務諸表監査の意見が「限定付」だったとしても終わった問題で、今後への影響はないと東芝が強調するのには一理ある。

 問題はむしろ、分かっていたはずの損失を先送りする東芝の体質にある。内部統制の不備とはつまるところこの体質のことだ。監査人が見るところでは東芝の内部統制には巨額損失を隠蔽するような不備があり、しかも東芝はその存在を認めていない。

 内部統制監査の不適正意見とはそういう意味だ。監査人側の指摘が正しいとすれば、東芝が内部統制を改善するのは難しいかもしれない。だって、改善すべき不備は存在しないことになっているのだから。 *2

*1:適正と認められない事項。

*2:不備はWECの見積りプロセスの問題だと東芝は言っていて、そうであれば翌期WECが連結除外となるため、形式的には不備は消滅する。連結されない会社は内部統制監査の対象外だからだ。でもそれで経営者の隠蔽体質が変わるわけじゃない。