Amazonが77%減益でも成長できるのはどうしてか

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……純利益は77%減の1億9700万ドル(1株当たり40セント)と大きく減少した。新技術やコンテンツ開発のための投資やマーケティングコストの増加が響いた。

Amazonの2017Q2(4-6)決算は営業利益で前年同期比51%減、純利益で77%減だった。これはAmazonの成長を損なう結果なのだろうか?

 僕らはAmazonが巨額の研究開発をおこなっていることに注意する必要がある。Q2における営業費用のうち、研究開発費*1は55億ドル。営業収益の14.6%に相当する。次のランキング*2は僕らにAmazonの研究開発費の凄まじさを教えてくれる。

2016

Rank

Company

R&D

Spend ($Bn)*

1

Volkswagen

13.2

2

Samsung

12.7

3

Amazon

12.5

4

Alphabet

12.3

5

Intel Co

12.1

6

Microsoft

12

7

Roche

10

8

Novartis

9.5

9

Johnson & Johnson

9

10

Toyota

8.8

  さてここに営業利益が等しい2つの企業がある。一方の営業費用は巨額の研究開発費を含んでいて、もう一方の営業費用はすべて販管費だ。他の条件がイーブンなら、果たしてどちらの企業の価値がより高いだろうか? このとき利益は企業の収益性を適切に反映しているだろうか?

 問題は会計基準上、研究開発支出が即時費用化されてしまうことにある。*3研究開発は企業の将来の収益拡大をもたらす無形資産への投資だと考えることができる。だからこそ企業は当期の収益に直結しない研究開発費を支出するのだ。

 けれど、工場建設などの有形の投資が当然に資産計上されるのに対し、無形投資が資産計上できる場面は極めて限定されている。*4企業活動における研究開発の重要性はますます高まっているというのに!

 無形投資の軽視によって、会計利益情報の有用性は著しく損なわれてきた。*5仮に研究開発費を全額資産計上していた場合、Amazonの2017Q2決算は営業利益で19.5%、純利益で21%の増益となる。*6

 ある支出が資産なのか一時の費用なのかは本来的にはそれが将来の収益獲得に結びつくかに懸かっていて、会計基準の取り決めとは関係がない。*7企業の価値を評価するには費用化されたもののなかに資産計上すべきものがないか、また逆に資産計上されたもののなかに費用処理すべきものがないかを投資家が判断していく必要がある。

*1:Technology and content

*2:2016: Top 20 R&D Spenders

*3:米国会計基準、日本基準ともに研究開発費は即時費用化が義務付けられている。IFRSは例外で、一部の開発費が資産化される。

*4:その主な論拠は無形投資の収益性は確実視できないからというものだが、有形の投資だってそれは同じはずだ。

*5:LEV&GU"The End of Accounting"は会計利益の株価説明力が低下してきた理由として無形投資の拡大を指摘している。

*6:ただしこれは過去に無形資産に計上されていたこととなる研究開発の償却費を無視した簡便的な計算だ。

*7:今回の減益を受けてAmazonの株価は下落したが、上で議論したことを考えればやや過剰反応ではないかと僕には思われる。