この本の第一章では小さな島の箱庭的な経済という、それだけならありふれた思考実験が描かれている。ありふれていないのは、政府と中央銀行の最後の日、すなわちその清算までが描写されている点だ。
この描写をする際、著者の頭の中には明らかにバランスシートが想像されていると思われるが、バランスシート自体の解説をする煩雑さを避けるためか、説明はすべて文章と簡単な図のみで行われている。
バランスシートが分かる人にとっては、それがあった方がやはり分かりやすいだろうと思ったので、第一章「最後の日の貨幣」における各主体のバランスシートを以下に示した。
解説はしない。著者自身の描写が傑出しているので余計な解説を加えることは避けたい。以下のバランスシートと照らし合わせながら本文を手にとって読んで欲しいと思う。
一点だけ余計なことを言うなら、別に著者は(おそらく)無政府主義者ではないので、政府と中央銀行を清算せよと主張されているわけではない。だが実際には清算しないとしても、それが問題なく可能であることが貨幣価値を維持するための条件である、と著者は暗に主張しているのだ。最後の王と王妃の会話はそのように読まれるべきだろう。