Amazonが税金を払っていないのはXXXに払いまくっているから

Amazonが過去最高益なのに税金をろくに払っていないというので話題だ。タックスヘイヴン云々という批判もあるようだがこの点に関しては誤っている。Amazonが利益のわりに課税を免れている理由は国際租税回避ではなく、米国の税法と会計基準にある。そしてAmazonが税金を払っていないというのは相当程度真実なのだが、にもかかわらず米国政府が税収を失っているわけではない。これは矛盾ではない。読者は最後にAmazonの意外な真実を知るだろう。

■あなたが減税したんでしょう?

利益のわりに税額が少ない場合、会計上の税前利益×法定税率と、実際の税額とを比較するのが定石だ。表の一番上が会計利益と法定税率から算定した理論上の税額、一番下が実際の税額で、その間に差額の要因を示している。*1

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Amazonが1ドルも税金を払っていないとかいった話は連邦法人税に限ったもので、州や米国外で課税された分を含めると756百万ドル課税されている。 それでも金額は法定税率の3分の1程度だ。課税額の圧縮に最も大きく影響しているのは株式報酬で、次に減価償却が影響している。

 減価償却の方は比較的少額で退屈な論点だからさらっと流すが、これは税制改正で固定資産の早期償却が拡大されたからだ。税務上の損金を会計上の費用に先行して計上できる分、課税を先送りにでき、設備投資の資金繰りが有利になる。ただし税金が免除されるわけではないので、結局は後の年度に多く払うことになる。

 言うまでもないが、この税制改正というのはトランプ税制である。大統領はAmazonの払っている税金が少ないと批判したそうだが、自分で減税しておいて何を言っているのか?

■ストックオブションは魔術か

株式報酬(役員や従業員に付与されるストックオプション)には、企業が労務を受け取る対価に既存株主の負担(株の希薄化)を強いる点で費用性が認められるが、現金を支払うのと違って対価の測定がはっきりしない。

 米国会計基準での株式報酬は付与日の時価をもって費用額を測定する。一方、米国税務上の非適格ストックオプションは行使時点の株価マイナス行使価格が損金に算入できる。普通、ストックオプションは株価が上がった場合に行使されるから、会計上の費用額より税務上の損金が大きくなる。

 つまりストックオプションで報酬を支払った場合、投資家に開示する財務諸表では利益を大きく見せることができ、税務申告上は所得を小さく見せることができる。なんという魔術!

 もっとも、会計上の交際費の全部を税務上の損金にはできないのと同じで、会計と税務は目的が違うため、利益や費用が両者で違っても驚くことではない。付与時のストックオプションの時価は多くの場合見積りで算出するしかないのに対し、行使時の株価は上場企業の場合客観的な数字だから、課税目的に後者を使用するのは理解できる。

■Amazonの仇をベゾスで討つ

そうはいっても実際大した税金を収めていないのでは、税金逃れの感は否めないだろう。ところが、ストックオプションで報酬を支払うことで法人税を逃れたとしても、課税を逃れることはできないのだ。なぜか?

 仮に行使時の株価で百万ドル分のストックオプション(行使価格はゼロ)をジェフ・ベゾスが行使すると考える。このときAmazonの法人税計算上、百万ドルが損金となるのと同時に、ベゾスの所得税計算上、百万ドルが所得となる。

 米国の非適格ストックオプションでは法人の所得減と個人の所得増はコインの裏表で、必ず一致する。Amazonがストックオプションの支払で課税を逃れたとしても、その分は結局、ストックオプションを受け取った側で課税されてしまう。

■ストックオプションを受け取ったのは誰?

例に出しておいて難だが、実のところベゾスはストックオプションを受け取っていない。 それどころか役員へのストックオプションも大きな割合を占めてはいない。

 近年*2のAmazonで役員へのストックオプションが最も多額に付与されたのは2016年の94百万ドル(付与時の時価ベース)で、総額660百万ドルの14%にすぎない。役員へのストックオプションは毎年付与されるものではないので、数年間の平均ではこの割合はさらにずっと小さくなる。

  ならば残りは誰に払っているのか? 株式報酬(Stock-based compensation)と言っている以上、役員以外の従業員に払っていると考えるほかない。従業員に労務の対価としてストックオプションを付与することで法人税が減るのは、普通に現金で給与を払った場合に法人税が減る理屈と変わらない。要するにAmazonが税金を払っていないのは、その分従業員に払いまくっているから。驚きかもしれないがこれが真相だ。

■まとめ

・Amazonが利益の割に税金を払っていないのは会計上の利益と税務上の所得の差。

・Amazonの場合は大部分が減価償却と株式報酬から生じている。どちらも国際租税回避などではなく、単に米国内の税法の問題。

・Amazonは従業員に株式報酬を払いまくっているので法人税が小さくなっており、その分は従業員の側で所得税が課される。

■おまけ:日本では?

日本では上のような株式報酬の問題は生じない。日本の非適格ストックオプション税制では、損金算入額は付与時の時価とされているからだ。これは、計上のタイミングのズレを除けば、基本的に会計上の費用と一致する。

 問題は生じない? いや、むしろ日本の方が問題だ。なぜなら所得税法上は、日本も米国同様、行使時の株価マイナス権利行使価格が給与所得となっている。

 つまり日本の課税当局は、法人には「あなたが払ったストックオプションの価値は付与時の時価ですよ」と言ってなるべく損金を立てさせないようにしつつ、個人には「あなたが受け取ったストックオプションの価値は行使時の株価ですよ」と言って所得を多く立てさせているのだ。二枚舌め!

*1:2018年12月期。減価償却の影響は減価償却に係る繰延税金資産増減×21%で算出。「その他」は差額で計算。ほかの項目は財務報告から直接数字が取れる。

*2:記事の執筆時点で2018年12月期の役員報酬は開示されていない。