空襲と設備更新の誤謬

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戦後日本が米国を上回る高成長を遂げたのは、企業設備が空襲で破壊されたために、最新の設備に一新されたからだ、とかつて言われていたことがあった。この説には難点がある。別に空襲がなくたって設備を更新するのは自由だ。最新設備を導入すれば豊かになれるなら、なぜ米国はそうしなかったんだろう?

 稼働中の旧式設備には新設備と比べて明らかな利点がある。なんといっても導入のためのコストがゼロだ(だってもう導入している!)。だから新設備の方が優れているからといって直ちに設備を更新すべきではない。削減できるコストが導入のためのコストを上回っていなければ、古い設備を使い続けたほうがマシだ。

 当時の米国の設備更新が日本に比べて遅れていたとしても、それは企業の合理的な判断の結果だ。米国企業に設備更新を強制したとしても、それで米国が豊かになることはなかっただろう。また空襲による企業設備の破壊が日本を豊かにしたということもありえない。

  経産省が古いIT設備の更新を企業に促すそうだ。老朽化したシステムがもたらすコストの削減が目的だという。もし導入のためのコスト以上の効果があるなら、促されなくたって企業は自発的に設備を更新するだろう。さらにもし、設備更新に補助金を出すようなことがあれば、企業にまだ使うべき設備を廃棄させる無駄遣いを推奨することになる。それは空襲で豊かになれると思うのと同じ勘違いなのだ。*1

*1:ところで冒頭のニュースによれば、経産省の報告書は、設備を更新すればGDPが上がると言っているようだ。たしかに設備更新によってGDPは上がるかもしれないが、GDPはここでは適切な指標ではないだろう。GDP(Gross Domestic Product)はNet(純)に対してのGross(粗)であり、固定資本減耗(企業会計でいう減価償却)控除前の数値である。要するにGDPという指標では設備投資のコストが考慮されないのである。