保守主義というバイアス

どうして研究開発費が即時費用化しか認められないのか、その理由は、研究開発費等に係る会計基準が設定されたときに公表されている。

研究開発費は、発生時には将来の収益を獲得できるか否か不明であり、また、研究開発計画が進行し、将来の収益の獲得期待が高まったとしても、依然としてその獲得が確実であるとはいえない。そのため、研究開発費を資産として貸借対照表に計上することは適当ではないと判断した。*1 *2

  収益に繋がるかわからない支出は、さっさと費用にしてしまおうというわけだ。このような考え方は保守主義と呼ばれている。怪しい資産が計上されない方が投資家にとって安全だ、という理由で保守主義は受け入れられてきた。

 でも、この理屈はヘンだ。というのは、価値の低い会社に誤って過大な投資をしてしまうことが損失になるのと同じように、価値の高い会社に投資せずにスルーしてしまうことも損失になるからだ。

 要するに保守主義というのは、実はただのバイアスじゃないだろうか? これは僕が勝手に言っていることじゃなく、会計学では昔からある話で、最近は世界の会計基準もどちらかというと保守主義を排除する流れにある。*3 *4

*1:研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書 研究開発費等に係る会計基準の設定について 三2

*2:別の記事を公開したときに、研究開発費の即時費用化は税制上の観点からそうなっているという主張がみられた。このような主張は歴史的事実に反しているばかりか、望ましくもない。財務会計は投資家にとっての有用性を第一義的な目的としており、税制がそれを歪めてはならない。税制上の必要性があれば別段の定めによって申告時に調整すべきだ。

*3:IFRSは2010年に「慎重性」を概念フレームワークから削除した。ただ一方で、経営者は費用を計上を先送りしたがるから実際上は保守的なくらいで丁度いいんだ、という主張もある。それでも特定種類の投資にだけ即時費用化を義務付けるのは他の投資の処理との間で歪みを生じるため、保守主義はあくまで一般原則のレベルで議論されるべきだろう。

*4:では研究開発費は資産化すべきなのか? どうせ注記で研究開発費の総額が開示されるので、実際上はどっちでもいいという考え方もありうる。前の記事で僕がそうしたように、どういう形であれ開示されていれば、読み手は勝手に修正して読むからだ。