政府は景気を良くすべきものだ、と考えられている。だから景気が良くなれば内閣の支持率は上がるし、悪くなれば下がる。
政府が景気を良くすべきだ、という立場からの政策は総需要管理政策と呼ばれる。それはざっくり説明すると次のようなものだ。
図の青線は実際のGDP*1で、赤線はある種の移動平均によって計算されたトレンドとしてのGDPだ。景気が落ち込んでいる状態というのは青線が赤線の下にあるときで、加熱している状態というのは青線が赤線の上にあるときだと考えられる。
景気が落ち込んでいるときは減税や利下げで浮揚させ、景気が加熱しているときは増税や利上げで抑え込む。そうやって青線を赤線に近づけていけば、景気の上下動を押さえ込み、トレンドとしての安定的な成長が達成できる……これが総需要管理政策の発想で、先進国の経済政策は程度の差はあれ、この発想で運営されている。
しかし、このような発想を苛烈に批判した経済学者も存在する。シュンペーターはトレンドとしてのGDPなど存在しないと考えていた。彼の考えでは、トレンドなどというものは、経済学者が実際のGDPに加工処理を施したときにだけ現れる幻想にすぎない。
彼の考えを、僕なりに現代的な形で解釈すれば次のようになる。潜在GDPなどと呼ばれ景気安定化の目標とされるトレンドとしてのGDPは、理論はどうあれ、実際のGDPの移動平均として計算される。*2それは効率的な資源配分を実現する理論上の均衡GDPとは異なる。
潜在GDPが移動平均として求められる以上、均衡GDP自体の変動が実際のGDPの変動を引き起こしているとき、僕らはそれを必然的に、トレンドからの乖離として誤って認識することになる。*3そのとき発動される総需要管理政策は、僕らの経済をあるべき均衡から乖離させ、経済厚生を引き下げてしまう。*4
仮にシュンペーターが正しかったのなら*5、景気を安定化させようという僕らの試みは無用であるか、むしろ僕らの経済に対して余計なことをしでかしていることになる。景気が良くなれば内閣を支持し、悪くなれば支持しなくなる僕らは、天候による不作を指導者のせいにしていた古代の人々を笑うことができないかもしれない。