ケチなミニマリストが僕らを豊かにする理由

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消費しない人々はしばしば理不尽な攻撃に晒される。ミニマリストは経済を回さないから悪だというのがそうだし、また金持ちがお金を溜め込むからから経済が悪くなるという愚痴はいろんなところで耳にする。

 でも、消費されなかった所得はこの世から失われるわけじゃない。それは銀行に貯蓄され、企業の設備投資をファイナンスする*1。消費するか貯蓄するかというのは、消費財の購入にお金が回るか、設備投資にお金が回るかという違いで、どちらも僕らの経済を回している*2

 逆にすべての消費者が全所得を即座に消費してしまうマキシマリストの国を想像すれば明らかだけど、この国では設備投資をファイナンスすることができないので、経済成長はもっぱら技術進歩に限られる。それは資本蓄積のない前近世の世界で、経済が回っているというよりは自転車操業だ。僕らが経済成長後の豊かな世界を生きているのは、僕らのご先祖様のミニマリストやケチな金持ちが資本を蓄積してくれたおかげだ。

 じゃあ別のケースとして、本当にお金が消えてしまったらどうだろう? ミニマリストが消費しなかったお金を銀行に預けるのじゃなく、タンスの奥や床下の壺に永久に退蔵してしまったら、今度こそ僕らの経済は回らなくなってしまうんじゃないだろうか?

 ちょっと考えてみよう。彼らが400万円分の生産物を生み出して、400万円の所得を受け取る。その所得のうち100万円しか彼らが支出せず、残りを土の中に埋めてしまった。そうすると物価が下落し、僕らの手持ちの貨幣の購買力が上昇する。これは貨幣を退蔵したミニマリストから僕らに、退蔵された分の所得が移転したことを意味している*3

 つまり貨幣を退蔵したミニマリストは、自分が生産したよりも小さい価値を受け取ることで満足し、残りの価値を僕らに贈与していることになる。彼らは僕らのためにタダ働きをしてくれているのだ! だから金庫やタンスに現金を溜め込む金持ちや老人を叩くのも同様に誤っている。自らの取り分を放棄してくれている彼らに、感謝はした方が良いかもしれないけど、文句を言うのは筋違いだ。

*1:銀行は自ら信用を創造しており、家計の貯蓄が貸し出されるわけじゃない、という意見があるかもしれない。しかし、家計の純貯蓄を超えて信用が創造されれば、消費財部門と資本財部門が資源を奪いこととなる。だから長期的には、投資は家計の純貯蓄によって維持されるしかない。

*2:それならどうして世間の経済アナリストや政治家が消費の冷えこみを恐れているのか不思議に思われるかもしれない。これは短期の景気変動の問題で、市場が資源配分を調整するにはちょっと時間がかかる場合がある。だから急に大勢の消費者が一斉に消費を控えれば、生産が落ち込んでしまうこともあるというわけ。

*3:要するに貨幣の退蔵とはマイナスのインフレ税にほかならない。