貿易赤字の正体は掛取引だけの世界で考えると分かりやすい。ドイツからアメリカに500億ドルの自動車が輸出されたとする。これが国際取引の全てなら、ドイツは500億ドルの貿易黒字で、アメリカは同額の貿易赤字だ。
これはアメリカにとって悪いことじゃない。ここだけを見れば、むしろ、明らかに良いことが起きている。だってアメリカはドイツから、一方的に500億ドルの自動車を受け取ったんだから! 貿易赤字を永久に続けることができるなら、アメリカにとってこんなに美味しい話はない。*1
問題はむしろ、そんなうまい話はないだろうってことだ。自動車が輸出されると同時に、ドイツには500億ドルの売掛金(債権)が生じ、アメリカには同額の買掛金(債務)が生じる。*2債権債務関係は、いずれ清算されなければならない。そのときアメリカは、ドイツに500億ドルの自動車(か同等のモノ)を引き渡すことになる。時間が経過していれば、利息分*3も上乗せだ。
要するに貿易赤字というのは、自国の将来の生産額をアテにして、現在の生産額以上の支出をする行為だ。*4これ自体は良いとか悪いとかは言えない。単に選択の問題で、互いの国の消費者の選択の結果として生じたのなら、黒字であれ赤字であれ望ましい。
ただアメリカの場合に注意したいのは、軍事支出をはじめとする多額の公的支出が「現在の生産額以上の支出」の原因となっている可能性だ。これは消費者の選択と関係なく生じるから、貿易赤字は悪いことじゃない、と単純には言えなくなる。アメリカが世界の警察としての役割を強いられているなら、アメリカの貿易赤字も、消費者の選択と関係なく強いられたものかもしれない。トランプ大統領が軍事支出の負担と貿易赤字を同時に問題にしたのはこのような意味がある。