内部留保(利益剰余金)に関する5つの事実

www.asahi.com もはや恒例記事となりつつあるとなりつつあるので多くは語らない。 利益剰余金は過年度の「利益ー配当」の積上げである。 したがって企業が普通に利益を出していれば利益剰余金は毎年当然に過去最高を更新し続ける。 実際、戦後ほとんどの時期…

トヨタの税率は低いのか?

トヨタは利益の10%程度しか税金を払っていない、という記述を某所で見かけた。この手の胡散臭い話はいろんなところで見るのだが、まず頭に入れて置かなければならないのは、トヨタグループが日本にいくら税金を収めているのかは開示されていないということだ…

競馬と選択と集中

togetter.com 当たり馬券だけを買い続けることはできない。何枚かの当たり馬券を手にした人は何枚かの外れ馬券を手にした人でもあるだろう。けれどそのことは、彼が賭け金を複数の馬券に分散させる戦略を採ったことを意味しない。彼はひとつひとつのレースで…

貯蓄から投資へ?

b.hatena.ne.jp 家計部門が預金を株式に持ち替えるには次の操作が行われる:企業部門の株式発行に応じて*1家計は預金の一部を企業部門に振込み、企業部門は振込まれた預金で銀行借入を返済*2する。さて何が起こるか? 特段何も起こらない。企業価値は資本構…

資本主義が長期の利益追求を可能にする

市場ないし資本主義経済は短期的な利益しか追求しない、としばしば言われる。そしてまたしばしば、だから基礎研究やインフラ、都市開発といった長期の投資は政府が実施すべきだ……と続く。*1 このような偏見を人々がどこで身につけているのか、僕には不思議で…

東芝の自社株買いについての雑感

jp.reuters.com 東芝が多額の自社株買いを決めた。昨年末に増資したばかりで忙しいことだ。以前から香港のファンドが自社株買いの実行を要求していたらしい。とはいえ、素直な経営だな、と僕は思った。 自社株買いは新株発行の反対をイメージするといい。株…

資源制約を無視して必要性を論じることは虚しい

*1無人島に流されたロビンソン・クルーソーは、寒さを凌ぐための焚き木か、渇きを凌ぐための真水を集めようと考える。両方を用意する時間はありそうにない。夜の闇がそこまで迫っている。 必要かどうかといえば、焚き木も真水も共に必要だろう。が、クルーソ…

恵方巻きは合理的に廃棄されているかもしれない

恵方巻きの大量廃棄が問題視されているようだ。それが問題視されるのは、農家や調理師の労働が無駄になっているように思われるからだろう。またそのような資源の無駄使いに、何か市場経済の失敗を見たような気がするからだろう。 とはいえ、無駄に材料を仕入…

教育の外部性はどのようなものでないのか

土地の賃借料が50万円、その土地を駐車場にする場合の駐車料金収入が30万円なら、その土地は駐車場にされないだろう。駐車サービスが駐車場の生み出す便益の全てであるとき、この判断は駐車場経営者にとってだけでなく、社会的にも最適となる。 というのは、…

学び直し教育への補助金はどのように反生産的であるのか

headlines.yahoo.co.jp 例えば土地の賃借料が50万円、その土地を駐車場にした場合の収益が30万円なら、その土地は駐車場にされるべきではない。30万円の価値を得るために50万円の価値ある資源を費やすことになるからだ。*1 一般に、投下される費用が収益を上…

政府機関はもやしの価格を「適正」にすることができるか?

headlines.yahoo.co.jp 日本の公取には安値販売を企業努力と見る意識があるが、英国には加工食品の小売価格が適正かどうかを監視する政府機関があり、参考にすべきだ 価格の話だけで数量に触れることなく議論が進んでしまう。僕には不思議で仕方ない。上の記…

値引きもクーポンも悪くない

www.mag2.com 値引きやクーポンを不況や低賃金の原因と考える議論は、そもそもどうして売り手が値引きするのかということをさっぱり忘れてしまっている。値引きするのは、単価が下がっても数を売ったほうがいいと売り手が判断するからだ。 粗利400円で1日50…

イラストの価格破壊と経済学の補助線

togetter.com イラストの価格相場が3万円であるとき、イラストを2500円で提供する人々の参入は僕らの経済をより貧しくするだろうか? 今日はちょっと変わった方法でこの問題を考えようと思う。補助線を引くのだ。 2500円でイラストを提供する人々と3万円で…

農業・市場・競争

b.hatena.ne.jp 元のツイート自体に言及したいわけじゃなく、ただそれに対する反応を見ていると、競争というものが何か酷く勘違いされている印象を受ける。政府が農家をリングに放り込んで蟲毒するようなのをイメージしているんじゃないか。しかし競争を導入…

研究者が公金で養われることを当然だとする見解について

http://b.hatena.ne.jp/entry/twitter.com/mixingale/status/929004106462642176 「研究になぜ公金をつっこむのか」って意見があるみたいだから研究活動の成果を公金を支払って一括利用する仕組みをやめて全部逐一利用料をとりたてる仕組みに変えてみたらい…

貿易収支を気にすることが不毛である根本的な理由は

貿易収支を気にすることが不毛である根本的な理由は、それが個々の経済主体の取引を特定の恣意的な仕方で集計した結果として表れる統計量にすぎないからだろう。 いま、一定の領域を持つ「世界」の中に無数の経済主体が存在している。各々の経済主体は互いに…

豊田市は都民の仕事を奪うか?

www.nikkei.com たとえば僕が東京都に住んでいて、豊田市で生産された300万円のプリウスをローンで買う。この取引は僕にとってもトヨタにとってもよいことだ。なぜなら僕は買いたくて買ったのだし、トヨタは売りたくて売ったのだから。 もし都民から自動車製…

減損の非対称性

100億円の事業投資を行う次の2つの状況を考える。 ケースA:利益率が2%で無リスクのプロジェクトに100億円を投下する。 ケースB:利益率の期待値が2%であるが、プラスマイナス5%の範囲で利益率が変動するプロジェクト甲に50億円を投下する。残りの50億…

新収益認識基準またはIFRS15の基本的思考

新収益認識基準が2018年4月から早期適用可能になる。その主な内容はIFRS15やUSGAAPのTopic606と基本的に同一である。ここでは5ステップの適用といった具体的な話ではなく、基準のベースにある思考法を解説する。 新収益認識基準の中心には「履行義務」という…

課税と歪み

例えば政府が窓1つに対して年間10万円の税を課すと決める。ある家の主人は税を逃れるために4つある窓のうちの1つを塞ぐ。このとき政府の税収はプラス30万円だが、家の主人の負担は30万円と窓1つとなる。 この税制はばかげている。というのは初めからこの…

価格理論と駒場の思い出

昔授業を受けた先生が教科書を出したのを本屋で偶然知った。学部二年生の夏、初めて履修した経済学科目だった。社会科学の方法に疑念を持っていた僕は、集合論と解析学を使った演繹的な議論に強く興奮を覚えた。 例えば経済学の仮定する個人は「合理的経済人…

「生産狂時代」と在庫循環

grapee.jp 上のリンクは「生産狂時代」という漫画で、最近ツイッターで流行した。企業が従業員の労働時間を増やして生産を拡大するが、売上はどんどん下がってしまう 。働き過ぎで商品を買う時間が無くなったという真相だった……というストーリーだ。 もちろ…

負債のパラドックスの正体――公認会計士試験で学ぶ企業会計

自社の倒産可能性が前期末より高まった場合に,自社が発行した社債の時価評価を当期末の財務諸表に反映したとすると,期間利益にどのような影響を及ぼすと考えられるか,簡潔に説明しなさい。ただし,評価差額を純資産の部に直入する処理については言及しな…

多重課税のこと

商品を仕入れて販売している単純な会社で、海外との取引がなく、借入れもなく、在庫を持たず、従業員もいない。この会社が支払う法人税は(売上ー仕入)×法人税率となり、消費税は(売上ー仕入)×消費税率となる。このような単純な会社のみから成る世界では…

余剰資金よりもむしろ利益剰余金に課税する方がマシである

news.yahoo.co.jp 内部留保に課税するなら貸借対照表の右側(利益剰余金)ではなく、左側(資産)の余剰資金に課税すべき、という意見を見かける。僕の見解は逆だ。僕はあらゆる内部留保課税に反対だが、あえて課税するなら余剰資金ではなく、利益剰余金を課…

内部留保が過去最高というけれど、過去最高を更新しなかった年は過去56年で9回のみ

そして内部留保が減少した9回は2005年を除けばバブル崩壊、通貨・金融危機、ITバブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災の年で、どれも景気後退時である。

国境と経済と独立と収奪と

www.theguardian.com カタルーニャが独立すればスペインはGDPの20%を失う。もちろん、これによってスペインの人々の生活水準が20%下がったりはしない。カタルーニャとその他のスペインは、政治が邪魔をしない限り、今まで通り経済活動を続けるだろう。 そし…

市場と政府と貧困の神話

神話がある。かつて自由放任の市場の中で人々は貧困に喘いでいたが、政府部門の拡大が市場の猛威を食い止め、人々を貧困から解放したという神話だ。これを神話と呼ぶのは話がまるごと引っくり返っているからだ。神話は出来事の後から作られるが、その出来事…

技術流出?

例えば東芝の半導体事業が海外資本に買収される。この「技術流出」によって東芝は特に損をしない。技術の分だけ高く売れるのだから。後から考えると安く売りすぎたということはあるかもしれないが、それはどんな取引にだって言える。 海外への「技術流出」で…

某アニメ会社による不正の簡単な会計的解説

GONZOの会計不正が今更ながら一部で話題になっていた。複数の不正の手法が用いられているものの、アニメ会社で発生した事例という観点からは製作委員会方式を利用した点が注目される。 製作委員会方式の場合、アニメ制作会社や広告代理店など複数の関係者が…