会計

「貯蓄から投資へのシフト」の怪

「安心して日本に投資を」 「資産所得倍増プラン」表明 岸田首相は、ロンドン・シティの投資家を前に「安心して日本に投資してほしい。Invest In Kishida(岸田に投資を)です」と述べたうえで、日本の経済成長戦略の1つとして「貯蓄から投資へのシフト」を挙…

「会計的事実」?

次のような奇妙な「会計的事実」とやらをしばしば見かけるようになった。 例えば政府が民間企業から航空機を購入する。この資金を国債発行によってファイナンスする場合、国債購入代金が国債の買手である市中銀行から売手である政府に、両者が中央銀行に開い…

企業が現預金を貯め込んでる、って本当か?

www.mag2.com 上の記事は企業の現預金残高が高水準にあることで日本の景気が悪くなっていると主張する。企業が貯めこむことで家計に現預金が流れず、家計の消費が抑制されているのだという。 そういう話が成り立っているなら、反対に家計の現預金残高は低い…

というか、JR北海道は”民営”なのか?

b.hatena.ne.jp ある人はいう、JR北海道の民営化は失敗だったと。また別の人はいう、JR北海道の民営化は間違っていなかったと。僕に言わせてもらえば、こんなものは擬似問題だ。だって、JR北海道は公営なんだから。 民営化の定義を争うつもりはないので次の…

Amazonが税金を払っていないのはXXXに払いまくっているから

Amazonが過去最高益なのに税金をろくに払っていないというので話題だ。タックスヘイヴン云々という批判もあるようだがこの点に関しては誤っている。Amazonが利益のわりに課税を免れている理由は国際租税回避ではなく、米国の税法と会計基準にある。そしてAma…

のれんの償却はなぜどうでもいい問題なのか

www.nikkei.com 日本基準ではのれんは毎期一定額が規則的に償却されるのに対し、IFRSではのれんの償却は行われない。のれんの価値が簿価を下回ったときに減損するのはどちらの基準も同じである。 今、IFRSでものれんの償却の導入を検討する動きがあるようだ…

時価会計有害説

Fischer BlackがMagic in earningsという論文で時価会計について面白いことを述べていたのを見つけたので一部訳出する。 証券アナリストは利益について明白な考えを持っている。彼らは標準的なPERを乗ずることで価値の推定が得られるような利益数値を求めて…

内部留保(利益剰余金)に関する5つの事実

www.asahi.com もはや恒例記事となりつつあるとなりつつあるので多くは語らない。 利益剰余金は過年度の「利益ー配当」の積上げである。 したがって企業が普通に利益を出していれば利益剰余金は毎年当然に過去最高を更新し続ける。 実際、戦後ほとんどの時期…

トヨタの税率は低いのか?

トヨタは利益の10%程度しか税金を払っていない、という記述を某所で見かけた。この手の胡散臭い話はいろんなところで見るのだが、まず頭に入れて置かなければならないのは、トヨタグループが日本にいくら税金を収めているのかは開示されていないということだ…

東芝の自社株買いについての雑感

jp.reuters.com 東芝が多額の自社株買いを決めた。昨年末に増資したばかりで忙しいことだ。以前から香港のファンドが自社株買いの実行を要求していたらしい。とはいえ、素直な経営だな、と僕は思った。 自社株買いは新株発行の反対をイメージするといい。株…

減損の非対称性

100億円の事業投資を行う次の2つの状況を考える。 ケースA:利益率が2%で無リスクのプロジェクトに100億円を投下する。 ケースB:利益率の期待値が2%であるが、プラスマイナス5%の範囲で利益率が変動するプロジェクト甲に50億円を投下する。残りの50億…

新収益認識基準またはIFRS15の基本的思考

新収益認識基準が2018年4月から早期適用可能になる。その主な内容はIFRS15やUSGAAPのTopic606と基本的に同一である。ここでは5ステップの適用といった具体的な話ではなく、基準のベースにある思考法を解説する。 新収益認識基準の中心には「履行義務」という…

負債のパラドックスの正体――公認会計士試験で学ぶ企業会計

自社の倒産可能性が前期末より高まった場合に,自社が発行した社債の時価評価を当期末の財務諸表に反映したとすると,期間利益にどのような影響を及ぼすと考えられるか,簡潔に説明しなさい。ただし,評価差額を純資産の部に直入する処理については言及しな…

多重課税のこと

商品を仕入れて販売している単純な会社で、海外との取引がなく、借入れもなく、在庫を持たず、従業員もいない。この会社が支払う法人税は(売上ー仕入)×法人税率となり、消費税は(売上ー仕入)×消費税率となる。このような単純な会社のみから成る世界では…

余剰資金よりもむしろ利益剰余金に課税する方がマシである

news.yahoo.co.jp 内部留保に課税するなら貸借対照表の右側(利益剰余金)ではなく、左側(資産)の余剰資金に課税すべき、という意見を見かける。僕の見解は逆だ。僕はあらゆる内部留保課税に反対だが、あえて課税するなら余剰資金ではなく、利益剰余金を課…

内部留保が過去最高というけれど、過去最高を更新しなかった年は過去56年で9回のみ

そして内部留保が減少した9回は2005年を除けばバブル崩壊、通貨・金融危機、ITバブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災の年で、どれも景気後退時である。

技術流出?

例えば東芝の半導体事業が海外資本に買収される。この「技術流出」によって東芝は特に損をしない。技術の分だけ高く売れるのだから。後から考えると安く売りすぎたということはあるかもしれないが、それはどんな取引にだって言える。 海外への「技術流出」で…

某アニメ会社による不正の簡単な会計的解説

GONZOの会計不正が今更ながら一部で話題になっていた。複数の不正の手法が用いられているものの、アニメ会社で発生した事例という観点からは製作委員会方式を利用した点が注目される。 製作委員会方式の場合、アニメ制作会社や広告代理店など複数の関係者が…

飲み会参加証券のプライシング

*1 所得フローx_0, x_1, x_2, ..., x_t, ...... を生じる資産の価値(時価)は割引率をiとして所得フローの割引現在価値Σ(x_t/(1+i)^t)となる。例えばxを企業のFCFと見ればこれはDCF法によって求められた企業価値そのものである。企業価値は債権者と株主が分…

監査法人のローテーション制度に異を唱える

www.nikkei.com 会計監査は不正に制裁を科すためにあるわけではない。財務情報の誤謬や不正によって困るのは投資家だ。だから会計監査は投資家の利益になる限り、そしてその限りでのみ行われるべきといえる。 監査にかけるコストを引き上げていけば財務情報…

内部留保は何を留保しているのか

内部留保はとても重要な概念だ。*1内部留保を理解することは貸借対照表と損益計算書の関係を理解することに等しい。したがってそれは複式簿記を理解することほとんどそのものだ。 会社を設立する 僕が100百万円を元手に会社を設立し株主になる。これが設立時…

規制における品質と量

企業ファイナンスではよく知られていることだけど、ROAなどの利益率指標のみに頼ると判断を誤る。最も利益率の低い事業を切り捨てれば企業全体の利益率は上がるに決まっている。けれど、その事業でもネットキャッシュインフローの割引現在価値がプラスなら、…

保守主義というバイアス

どうして研究開発費が即時費用化しか認められないのか、その理由は、研究開発費等に係る会計基準が設定されたときに公表されている。 研究開発費は、発生時には将来の収益を獲得できるか否か不明であり、また、研究開発計画が進行し、将来の収益の獲得期待が…

東芝で学ぶ内部統制監査「不適正」の意味

jp.mobile.reuters.com 上場企業が作成した内部統制報告書に監査法人の不適正意見がつくのは「きわめてまれなケース」(金融庁幹部)だ。過去5年で不適正意見がついた例はない。 実のところ内部統制の不備はままあることで、それほど珍しくない。けれど内部…

なぜ業績不振でも民営化は僕らの経済を豊かにするのか

biz-journal.jp まったく当たり前だけど、民間企業には業績良好の企業もあるし、業績不振の企業もある。これもまったく当たり前だけど、業績不振はその企業のビジネスの失敗を意味していても、市場メカニズムの失敗を意味していない。 あるビジネスが市場の…

強力な解雇規制はいかにして人材派遣会社の「中抜き」を作り出すのか

www.nikkei.com 利用企業は人件費を変動費にできるほか、派遣人材の質に悩まされなくなる。事業再編のペースが速いIT(情報技術)業界やゲーム業界での利用を見込む。 解雇が難しければ、人を雇うことはどうしたってリスクになる。仕事がなくなっても人件…

民間に負えないリスクは官製ファンドも負ってはいけない

www.nikkei.com 「次世代の国富を担う産業創出」を掲げ、民間で負えないリスク資金を注ぐが、ベンチャー育成で苦しむ姿が浮かんできた。 リスクには、資金提供者が負っても良いと考える適切な水準がある。成功した場合のリターンが極めて高いと見込まれるな…

移籍制限の禁止がいかにして芸能人の機会を奪うか

www3.nhk.or.jp 伝統的な製造業なら、例えば工場を建設することが投資になる。それによって構築された資産の価値は、銀行などの債権者が持っていく部分を除けば、投資を行った企業自身の*1ものだ。 工員がライバル他社に引き抜かれても、当然だけど、その工…

Amazonが狂っているように見えるのは会計基準が追いついていないだけ

anond.hatelabo.jp 上の匿名ダイアリーはAmazonの会計上の特徴として次の点を指摘する。 Amazonは利益を出していない Amazonが利益を出していないのは莫大な投資をしているから そしてこの匿名ダイアリーは、その理由をAmazonの実体的な経営方針に求めている…

政策融資はなぜ補助金を意味するのか

www.rieti.go.jp 天然ガス火力と異なり、設備費の比率が大きい石炭火力は、低金利融資がなければ成り立ちません。これまでは、電力事業者が将来を見越して石炭火力の新技術を導入できましたが、自由化された市場メカニズムでは不可能です。つまり政策でカバ…